シェアオフィス運営、それでもやりますか?


弊社では不動産仲介業をメインとしつつも、既存建物や有休空間活用についての企画に携わる機会もだんだんと増えてきました。そこで、必ずと言っていいほど、宿泊業に次いで、シェアオフィス(コワーキング)はどうだろう?という話題が出てきます。


今の時流としてこの話になるのは、非常に解るところです。数年前から福岡市が起業をバックアップしており、フリーランスやスタートアップが沢山生まれているでしょうし、そもそも人口も右肩上がりで増えています。


加えて、例えば民泊等と比較して参入コストが低いのも特徴。極端な話、最低限インターネット等のインフラと、デスク・椅子、それにプリンターを置けば始められてしまうわけですから。それに対し、半坪以下のスペースで月間1-3万円程度の利用料が取れるのは、運営サイドからしてみれば確かに魅力です。


しかし私は前々から、シェアオフィス活用については基本的にあまり推奨してません。理由は後述します。


まずシェアオフィス自体がなんぞや?という点と、現在の傾向等を知って頂きたいと思います。



シェアオフィス利用者のメリット・デメリット


オシャレで広い空間にフリーデスクなイメージのシェアオフィス。


メリットはまず、利用ハードルが低いということに尽きます。賃貸では必ずといっていいほど求められる保証人や敷金や保険料等も不要、またデスク等の什器や設備も用意せずに済み、イニシャルコストが圧倒的に安いのが魅力。まさに今日から入れるオフィスなわけです。

更に場所によってはフリードリンクや法人登記、電話応対代行もできるなどのサービス・オプションもありますし、清掃もしなくて良いので、仕事に集中しやすいというのもポイント。

そして、シェアオフィスの最大のメリットといえばコミュニティでしょう。入居者間の距離が近い為に会話が生まれやすく、そこから価値ある情報が入ってきたり仕事に繋がる可能性もありますので、特に開業したての方には追い風となります。


しかしコミュニティが成熟し過ぎると、内輪・排他的にもなりがちで、諸刃の剣にもなり得ます。要は新規会員が入りづらい状態になるということです。


7年ほど前、大名に福岡の先駆けとも言えるコワーキングスペースがあり、試しにそこで開催されているオープンな飲み会に行ってみたのですが、内輪盛り上がりが凄く、なかなか輪に入りづらいなと思った記憶があります。それが原因ではないと思いますが、その施設はその後夜逃げ同然で閉鎖してしまいました。



開放的で自由が故の欠点


また、シェアオフィスはPCひとつで仕事が完了できる業種の方にはかなり適していると思われますが、そうでない業種にはデメリットと思われる点も多いです。

我々のような不動産業は特にですが、こういった開かれたスペースで個人情報を扱う作業はできません。PCや書類を広げたままトイレに立つこともできないのは、かなり厳しいです。同様の理由で電話で話すこともしづらいですし、そもそも他の利用者の迷惑になります。


もちろん、施設によってはデスク共有型だけでなく個室もありますので、それらはやや改善できるかもしれませんが、ネットが共有回線だったり、プリンターに書類を置き忘れた等のセキュリティリスクはどうしても付きまといます。また公衆電話のようなフォンブースもよく見かけますが、電話する度デスクからいちいち移動するのは面倒という意見も。


また、倉庫利用まではいかなくとも、書類やちょっとした在庫やノベルティの入ったダンボール等、一時的に荷物を置くこと等もシェアオフィスではなかなか出来ないのも厳しいところです。



シェアオフィス運営をあまり推奨しない理由


上記の長所短所を踏まえると、主にITやクリエイター向きということになります。例えばWEB制作・プログラマー・デザイナー・ライター等です。反面、デスクワーク系で向かないのは士業でしょう。司法・行政書士や税理士。広い作業スペースを必要とする建築・設計士も厳しいと思います。


こうして、自由と思われる空間であっても意外と業種が絞られるのがシェアオフィス。利用対象者が意外と少ないかも?ということは大前提として知っておくべきことだと思います。そして、入りやすいということは出やすいということの裏返し。不動産と比較しても入れ替わりが激しく収益が安定しません


また会議室を別途用意し「◯時間まで利用料タダ」というオプションを付けている施設は多いですが、ミーティングを高頻度で行う利用者にとってはきついところですね。


極めつけ、通常の賃貸と圧倒的に異なる点は、管理者を置く必要があるということです。受付や清掃等のスタッフ人件費が発生するので、小規模型の場合は採算が合わない可能性が高いです。無論、無人型でもいけなくはないですが、コスト・手間の点でハードルは高いです。


そして、確固たるデータがなく申し訳ありませんが、私の肌感では、福岡は供給過剰気味では?と思うことが多々あります。「◯◯が開業したけど、全然入っていないらしい」「退会が増えているらしい」という話は至るところでよく聞きます。


その中でTKP(リージャス)・wework等の世界的企業や、地場でもThe Companyなど資本力のある大手が超一等地で大規模なスペースを随時増やしていますし、企業がまとまった人数で入居する時はこういった大型施設に入ることが殆ど。その中で戦っていくのはなかなか厳しいと言わざるを得ません。



実は大手もカツカツ?


上記のような話を聞くと、では超一等地で大規模な予算を投下すればいけるのか?と思う方もいるかも知れません。しかし前述のTKPがリージャスを買収した時の記事ではこのように書かれています。


実は、TKP自身も2017年4月にベンチャー企業向けのシェアオフィス運営会社を買収したものの、事業が軌道に乗らず手放した過去がある。成長が著しい反面、淘汰も激しいベンチャー企業向けのビジネスは、営業コストがかかる割に収益がついてこなかった。河野社長は「シェアオフィスを単独の事業として運営するのは難しい」と振り返る。
 不採算事業であるはずにもかかわらず、各社はシェアオフィス事業をなぜ拡大しようとしているのか。それは、シェアオフィスはその後に続くビジネスの「入口」にすぎず、月額利用料そのものを収益源にしていないからだ。IWG自身、他社と比べて優位な点について、「シェアオフィス利用料ではなく会員向けの付帯サービスによるものが、売上高のうち29%を占める。これは競合他社の約4倍だ」(マーク・ディクソンCEO)と認める。

(東洋経済「儲からないのに『シェアオフィス増殖』のなぜ」 より)


そう、利用料のみでは成り立たないと、きっぱり言ってしまっているんです。


加えて、ご存知の方も多いwework。超一等地にデザイン性の高いオフィス、ビール飲み放題などユニークな取り組みも話題で、次世代ワークスタイルのモデルとして大きく期待されていました。


しかし、世界で年2000億円以上の赤字(売上はそれ以下)を出しており、本筋とは逸れますが創業者の利益相反やその他ガバナンスに問題が発覚しCEO解任、評価額5兆円と言われたIPOも延期となってしまいました。従業員の3分の1削減も検討しているという話もあります。要は、実態価値が追いつかないまま、もてはやされすぎたということです。


私自身も社会勉強として見学に行ったことがありますが、まず価格に面食らいました。フリー席で1人7万、1帖ほどの個室が11万円ほど。もちろん、入居者のブランディングになったり、日本だけでなく世界中のweworkが使えたり、普段では作れないような人脈が出来たりなどメリットも沢山あるでしょう。しかし、福岡のフリーランスでこれを毎月払える人が果たしてどれくらいいるのか・・。


逆に言えばwework側も、これぐらいの費用でないとやっていけない、というか、事実としてやっていけていないわけです。(当然、拠点拡大の為の先行投資も莫大でしょうから、必ずしも運営側の目論見が悪いわけではないと思いますが)


つまり、スケールメリットを得やすい超大手ですら苦戦しているんです。更に、向かい風は続きます。



無料化の波


シェアオフィス界にもGAFAの波が遂に来てしまったようです。福岡にはまだありませんが、1年前に東京にできたというAWS Loft Tokyoは、AWS(Amazonが運営するクラウドサービス)のアカウントさえ持っていれば誰もが使用できるシェアオフィス。更にアカウント登録は無料だとか。


しかもそこは、一部のスペースを外部者向けに開放しますといったノリのものではなく、かなりの豪華さ(こちらの記事で詳細を見ることができます)。

(画像はAWS Loft Tokyo WEBサイトより)


では、福岡ではどうでしょう。特筆すべきはFukuoka Groth Next。前述のようにシリコンバレーやシアトル・ポートランドのようなスタートアップ都市を進める行政主導のもと、大名のど真ん中で無料開放し、ネットも電源も使えて、自由に本が読めたり、VCや行政書士等への起業相談も気軽に行える環境は、私も利用させて頂きましたが本当に有り難いです。


加えて、民間でもさくらインターネットや、ペンシル社のフデバコ等が無料開放するという太っ腹さ。資本的余裕のある企業の無料開放、この流れはきっとこれからも加速していくんじゃないかと思っています。LINEあたりもあり得るかもしれませんね。


とにかく近隣で無料でここまでやられてしまうと、余計にシェアオフィスの収益化は難しいのが正直なところです。



それでもシェアオフィスをしたいなら・・


ここまで読むと、「おいおい、随分後ろ向きだな。じゃあやらない方が良いってこと?」という声も聞こえてきそうです。決してそんなことはなく、ある程度の条件を満たせば小規模でも全然やっていいと思います。


私が考えるその条件とは、以下の4点です。


  1. 既に有休スペースがある
  2. 儲からなくていい。トントンで良い。
  3. 立地が良い
  4. 唯一無二、絶対的なウリがある。(海が見える。仕事がもらえる等)


まず、「1,既に有休スペースがある」という点。ビル等を所有していたり、広めのオフィスを借りてしまった会社が、スペースの活用として賃料の足しになれば的な目的でやるのはアリだと思います。


物件を借りて専業として行うのは基本的にオススメしません。先日も、とある管理会社の方から「100坪クラスの管理物件に、ほぼ個人のような会社からシェアオフィス用途の申込が入った」と聞きました。しかもそこは群雄割拠のエリア。どう見ても近隣の大型施設に太刀打ちできるとは思えず、「高確率でコケますので十分注意してください」と伝えました。


副業or専業いずれにせよ、元々賃貸物件の場合、転貸借(又貸し)になるのでオーナーとの契約違反になる可能性があります。よく契約内容を確認の上、オーナーに了解を取ってから行いましょう。


2については、1とも関連しますが、前述の通りビジネスモデル的にそれ単体での収益性はまず見込めないという歴史が証明されてしまっているので、「別に儲からなくていいけど閉鎖的な会社が多少なりとも賑やかになったら」ぐらいのノリで始めるならアリでしょう。ただそれでも多少の投資は必要で、ゼロリスクにはなりません。


以前とあるWEBメディアを運営する企業に有休スペースの活用について相談を受けた際、シェアオフィス案が出たので、私は「ライターに入居してもらい、メディア用の記事を書いてもらって、そのギャラを賃料代わりにする」という案を出したこともあります。これはかなり突飛だったと自分でも思いますが、金銭面以外のメリットを出したいならそういう考え方も一例として有りだと思います。


3の立地については十分吟味する必要があります。福岡の都心部と言われるエリアは非常に狭く、そこを出ただけで一気に運営は厳しくなります。例えば弊社のある中央区高砂は薬院駅から数分の場所ですが、天神からは1kmほど離れ、この時点で運営はかなり厳しいです。


これはシェアオフィスに限らず言えることですが、福岡の人の移動についてはかなりシビアに考えるべきで、奇をてらってマニアックな立地に出店すると、それが天神から少し出た場所であっても洒落にならないぐらい閑古鳥が鳴きます。



ぜひ見習いたい、身近な成功例


さて、"あまり"推奨しないと前述したのは、例外があるためです。


それがSALTです。天神でも博多でもなく、そこから電車で20分以上かかる西区今宿。いわゆる郊外型で、都心のそれらとあえて勝負をしないという選択をした、稀有な成功例と言えます。窓の外が海という絶景中の絶景で、都会にはない最高の癒やしがある為に、1時間以上かけて通っている利用者もいるとか。これが理由4に記した唯一無二のウリです。


(画像:SALT WEBサイトより


しかし、それだけで利用者が集まるほど運営は甘くはありません。そこでSALTでは、コミュニティマネージャーというスタッフを置いたり、元カフェだった厨房を活用してランチ会やイベント等も随時実施し、絶えず入居者間の関係性向上に力を注いでいます。


前述した通り、シェアオフィスの最大のメリットはコミュニティであり、お金をかければ効果を出せるとも限らない一番難しいところ。そこを地道に行った結果、現在、会員は常にほぼ満員状態、開業から4年半もサステナブルに稼働できていて、見習うべき部分は沢山あります。



ということで結論。そこまで面倒見きれますか?ってことなんです。できる覚悟のある方は是非運営にチャレンジして頂きたいし、我々の想像の斜め上を行く、ウルトラC的な取り組みも期待したいところ。


「いや〜、そこまではちょっとできないな・・」という方は、他にもいくつか手はありそうですので、是非ご相談ください。