無駄を無駄と捉えるか、学びと捉えるか



 先日、ご紹介のお客様より、福岡市中心部から車で1時間弱かかるA市にて賃貸住居を探して欲しいというオーダーを頂いた。A市は正直、自分の経験上仲介実績がなかったが、WEBで周辺調査を行った上で物件提案を何度か行い、当日現地付近で待ち合わせて3件ご案内させて頂くことになった。


 当日、不可抗力で3時間車中待機というアクシデントに見舞われながらも、なんとか夕方から夜にかけて案内は完了し、他業者で内覧した物件も含めて後日回答という流れになったが、3日後に「他業者の物件に決めてしまった、わざわざ提案・案内頂いたのに申し訳ない」という連絡を頂いた。


 その決められた物件がクローズ物件(他業者で扱えない)だったので仕方ないと思いつつ、前述のように距離や時間の部分でも結構労力のいる案内だったので、正直落胆はした。


 しかし、だ。


 冷静に考えれば、このことによりA市の土地柄や、駅間の距離感覚はだいぶ身を持って知ることができたのである。もし、次回他の方よりA市でのオーダーを頂いたとしたら、より素早く提案・アドバイスができるであろう。成約には繋がらなかったが、経験値は上がったし、この経験は、お金では買うことはできない。お客様にはとても感謝している。



 もう一つ、例を挙げたい。


 これは不動産業界に入って2年目くらいだっただろうか、当時所属していた会社の代表の紹介で、東京のとある企業が福岡進出を狙い、100坪クラスのオフィスを探しているという。当然賃料も100万クラスだ。


 大型オフィスを扱ったことはなかったが、今までとはまるで桁の違う物件であり、そして代表から振って頂いた話というのもあり、相当張り切ってリサーチ・提案を重ねた。今はそうではないが、業者間の流通データベースには大型オフィスの物件情報は載っておらず、時に足を使って募集元を突き止めたり、条件一覧表を別途作成したりなかなか骨が折れたが、特に大変だったのは物件案内だ。


 来福の度に3〜5件ほど案内することになるのだが、役員クラスの方が毎回3,4名ぐらいで訪れ、それを自分ひとりでアテンドしなくてはならない。しかも当時の社用車が15年落ちくらいの軽で、さすがにそれには乗せられないということで、会社と費用折半の上カーシェアを手配した。(業務委託社員だったので会社とはそういう契約だった)2,3ヶ月に一度訪れては案内し、先方様の福岡進出計画の遅れもあり、それが計5回、1年半ほど続いた。最後は社長が直々に訪れての案内だった。


 結果は、駄目だった。

 最終日、自分が案内した後、他業者の物件で、決まってしまったのだ。


「えーっと・・大崎さんには良くないお知らせなのですが、」という常務からのバツの悪そうな電話の声が今でも忘れられない。当時は経験浅く営業マンとして幼かったので、ただただ疲弊して、しかも自腹きって何にもならなかったと悔やんでも悔やみ切れなかった。



 しかし、これも、後々とても身になったわけだ。博多・天神エリアのオフィス相場感・基準がバッチリと頭に入った。オフィス専門業者とのコネクションもできた。これはその後の物件提案や、更に何度も関わらせて頂くことになるスモールオフィスのプラン作成などで何度も役に立った。不動産データとにらめっこしていただけでは絶対に得られなかった知識だ。これもまた、当時のお客様には大変感謝である。



 不動産業に関わらずだと思うが、本当にこんなことはよくある。「損して得取れ」「苦労は買ってでもしろ」とはよく言ったものだ。悔しさが成長へと繋がり、それが何倍にもなって未来に返ってくる。一見、無駄に思えることは決して無駄ではない。腐ったら終わり、なのだ。



 日々の作業においては、極力無駄を省くことは心がけている。例えば、入居申込書の記入は、わざわざ紙にプリントアウト、記入してFAX送信なんてことはしない。iPadでPDFに直接Apple pencilで記入してメールかe-Faxで送ってしまう。契約書類は全てスキャンしクラウドに入れ(当然パスワードをかけた上で)、お客様から内容について質問があれば事務所に戻らなくともiPhoneを開いて30秒以内に答えられるようにしている。手書きメモも、後から追えない紙ノートにはせず、全てiPad。こういった作業の無駄を省いた効率化は積極的にすべきだと思う。


 しかし「どう考えても無理」というものは除き、「経験」そのものを省く、もしくは避けることは非常に勿体ない。当然、成約まで漕ぎ着けられるかどうかは、やらないと分からない。やって大やけどするかも知れないが、その傷が未来の血となり肉となる。日々、お客様にそれを教えて頂ける自分は幸せだ。